【ハナチの話】

文・テト母/イラスト・みのり

猫の絵


これはもう10年も前の事。

その頃私は動物の飼えない集合住宅に住んでいた。

その建物は古かったが、塀に囲まれた広い敷地に建っていた。

塀の中にはたくさんのノラ猫も住んでいた。

私の部屋は1階でベランダの真ん前には毎年真っ赤な花を付ける大きな椿の木があった。

ベランダの窓からはいつも何匹かの猫ちゃん達がごはんをねだりにやってきた。

その中に白地にキジ点模様の女の子がいた。

お鼻の横にも小さなキジ模様があったので『ハナチ』と呼んでいた。

その子はシャイで決しておうちには入ろうとはしない。

そんなある日、うずくまって元気の無いハナチを見つけた。

とりあえず、お家に連れて帰るといつも決して入りたがらなかったのに

安心したように丸くなって眠ってしまった。

朝になったら、お医者さんに連れて行こうと思った。

でもその日夜遅くなるとよろよろと外に行きたいと鳴いた。

トイレかも、と思って外に出してあげたらそれきり戻ってこなかった。

それから数日後近くの駐車場でハナチが死んでいた。

その日は朝からの雨がようやく上がったので出かけようと思った時のことだった。

雨のおかげでカラスに突かれたりしていなかった。

よく木登りをして遊んでいたあの椿の木の根元に


ハナチを埋めた。


あの日、最期のお別れを言いに来てくれたんだね。

そしてその翌年もその翌年もハナチの椿は真っ赤な花を咲かせていた。





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