【招き猫】

文・ひょうたろう/イラスト・みのり

猫の絵


東京のあるところに、大金持ちがいました。

お城のような家をたて、駐車場にはスーパーカーが何台も並び、

庭の一部は9ホールのゴルフコースになっており、

ハザードがわりの池には一匹百万円もする錦鯉が何匹も泳いでいるのです。

大金持ちは欲望の塊の持ち主で、もうこれでいいという事を知りませんでした。

阪神大震災があり、東京にも大地震が来るだろうと、日本中の建築資材を買い集め、

今年の夏は冷夏の予想で米が不作になるだろうと、米まで買い集めていました。

宝くじなんて、当たっても大金持ちにとって、はした金にもかかわらず、毎回10枚買っていたのです。



今日もお金になることはないかと考えているところに、知り合いが訪ねてきて、

下町のある家に飼われている、「福を呼ぶ猫」の話をしたのです。

その猫の頭をなでた人は、皆、幸せになるというのです。

神も仏も信じない大金持ちでしたが、その話を聞くと、

いてもたってもいられないくらい、その猫が欲しくなったのです。

さっそく下町に出かけ、その家を訪れると一億円の小切手を差し出し、

その猫をこれで売ってくれと言いました。

あっけに取られている飼主の隙に、奪うようにして連れて帰ったのです。



外に散歩に出ようとする猫に、

「おまえは鼠なんて捕らんでもいい、地震を起し、米を不作にし、宝くじを当てればいいんだ。」

と、家から一歩も出さず、朝に晩に、猫に手を合わせお願いするのでした。



月日は流れ、地震も起きず、宝くじは毎回はずれ、

「おまえは、いったいいつ当てるんだ」

「なにが福を呼ぶ猫だ」

と大金持ちは、はずれた宝くじを、猫に投げつけたのです。

その時、玄関に物乞いがやってきて

「旦那さん、哀れな私にお恵みを」と、手を出しました。

大金持ちは、「おまえにやるような物は何もない。帰れ」と言いながら、思い出したように、

猫を抱いてきて、「ほれ、一億円の猫だ、くれてやる」

と、物乞いに放り投げ、玄関を閉じました。



物乞いは「かわいそうになー、でも飼ってはあげられないよ」と話しかけながら、

猫の頭をなでると、首輪に先ほど投げつけられた、宝くじの一枚が引っ掛かっていたのです。

はずれた宝くじとは知らない物乞いは、猫と一緒に宝くじ売り場に行き、調べてもらったのです。

すると、宝くじのおばさんが、目を真ん丸にし「アッ、当ってるー」と叫んだのです。

なんと、一億円が当っていたのです。大金持ちは回数を間違えて見ていたのでした。

物乞いは、何度も猫にありがとうと、頭をなで、一緒に幸せな生活を始めました。



その後、地震も起きず、大不況になり、借金で買い集めた建築資材は売るに売れず、

二束三文になり、天候の予想もはずれ、米は大豊作、大金持ちは何処かへ逃げてしまったそうです。




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