【子猫が結んだ赤い糸】

文・さちこ/イラスト・みのり

猫の絵


それは9月の第1月曜日、アメリカ合衆国労働の日の休日

ルームメイトの居ない静かな家で一人休日の午後を過ごしていました。

気が付くと裏庭から子猫の鳴き声が。家の前でよく寝ている野良猫の子供だろうと

思ったのですが、一時間経っても泣き止まない。



“どうして?お母さんは何処に行ったの?”



様子を見に行こうかと思いながらも、

今まで猫を飼った事の無かった私は迷っていました。

探しに行くという事は、その後も責任を持って世話をするという事。

私に出来るんだろうか。病気になったら?死んでしまったら?

迷う私に子猫は鳴き続けていました。



“もう駄目だ、ほおっておけない!”



  裏庭に飛び出した私の足音に警戒したのか、猫は泣き止んでしまいました。

“怖がらなくても大丈夫だよ。見つけてあげるから何処にいるかわかるように

泣いてちょうだい。” そう呼びかけると、子猫は更に大きい声で泣き始めました。

しかし、声は聞えるのに姿が見えない。すると目の前に、

一ヶ月程前に切り落とした枯れ枝の山が。声はここから聞えてくる。

子猫を間違えて上から踏んでしまわないよう慎重に枝を取り除いていくと、

なんとコンクリートの段差と枝の間の隙間に目の開いていない子猫が。



“目が開いていないー!”

 私は思わず叫びました。これじゃ初心者の私に上級コースじゃないか…!



困っている私を助ける為に駆けつけてくれた友達が、

電話帳で近所の動物救急病院を調べてくれました。

これ以上迷惑を掛けられない友達を見送ると、心配してくれていたのでしょうか、

既に帰宅していたルームメイトのHが、猫を飼っている彼の友達を呼んでくれていました。

“もう夜も遅いし、明日朝早いんやろ? 俺達が猫を病院に連れて行ってやるから。”

そう言われて “二人に頼めば少しは気が楽になるかも。今直面している責任から逃れられるかも…。”

一瞬そう思った私ですが、“いや、いいよ。自分で決めてやった事だから自分で行く!”

そう言って、猫を抱えて車に向かった私の顔は、今にも泣き出しそうだったに違いありません。



エンジンをかけて走り出そうとした時、Hが後部座席に飛び乗ってきました。

“本当に一人で大丈夫だから、ほおっておいてよ!”自分自身に対する苛立ちから、

ついキツイ言葉を発してしまった私にHは何も言わず、

後部座席から動こうとはしませんでした。病院で子猫が健康である事を確認し、

ほっと安心したのも束の間、お医者さんから



“授乳は4時間毎に。排便もちゃんと手伝ってあげてね。”

私はまたもや泣きそうに。仕事に行っている間授乳が出来ない、



どうしよう…。



すると、朝は遅く仕事に出かけ、夜も遅くまで起きているHが交代で子猫の世話を

する事を申し出てくれたのです。そしてその日以来Hは仕事の後のジム通いを止め、

毎朝毎晩猫の世話を手伝ってくれるようになったのです。


二人の試行錯誤の努力の元、子猫がすくすくと成長してゆくのと共に、

何時の間にか私たちの間にも友達以上の“キモチ”が育っていきました。



・・・・


それから一年半後、私とHは結婚し、私達は正式に子猫の両親となったのでした。



−おわり−



戻る