【三毛婆ちゃんとクロちゃん】

文・にゃん次郎/イラスト・みのり

猫の絵


このお話は、「茶トラのお話」のおまけです。


茶トラが我が家にやってくる少し前から、時々遊びに来る猫がいました。

三毛猫のメスで、可愛そうに捨てられたのでしょう

飼い猫だったのは見ていて明らかでした。前足をバネにして頭をゴンっと突き上げて

「撫で撫でして〜」と言っている様なポーズをよくしてきます。

そんな時は撫で撫でしてあげると、喜んでくれている様に見えました。

その三毛猫は、やがて仔猫を連れてくる様になりました。

たまたま海老が残っていたのであげた時があったのですが

仔猫たちは海老の身の部分を食べるのですが

三毛猫のお母さんだけはカリカリとシッポばかり食べて、身をあげても食べません。

海老のシッポが好きな様で、猫にもちゃんと食べ物の好みが有るなんて面白いなぁ、と思いました。


猫が何匹も居着いてしまっても困るなぁ、と思っているうちに

強く生きていけそうな感じのする猫は、いつのまにか何処かへ行ってしまいました。

最後には茶トラだけが残り、三毛猫のお母さんは「茶トラはあなた方にお任せしましたよ」

とでも思ったのか、少し離れた所を自分の住みかと決めた様で

うちには来なくなりました。三毛猫のお母さんは、とっても大人しくていい猫で

鳴き声も「ニャ〜ン」と長くなくて「ニャッ」とかすれて終わってしまうので

うちでは「三毛婆ちゃん」と呼んでいました。

三毛婆ちゃんは少し離れた所にいつもいたので、近くを通る時には、時々会うことが出来ました。



茶トラの兄弟のうち、黒猫のメスだけは、うちの近くでノラをやっている様でした。

足の先だけはソックスをはいた様に白く、メス猫なのでいつまでも小柄でチャーミングな猫でした。

近くを通りかかると、ニャーニャー鳴きながら近寄ってきて

スリスリしながら私の足の周りをクルクルといつまでも回ります。

私は「クロちゃん」と呼んでいました。他の猫の場合はあまり人の足は踏んでこないのですが

このクロちゃんは,人の足などお構い無しに、足を何度も踏みながらクルクルと回ります。

あまりの可愛さに、猫の餌になる物を持ち歩く様になりました。

私の家では飼えないからと、いつも適当な所で切り上げて、急いでその場を去る様にしていたのですが

あまりに可愛いので、「今日は家で美味しい物をあげると決めた!」と思い

クロちゃんがついて来る様ならご飯をあげよう、と思った日が有りました。

クロちゃんはジグザグジグザグと歩いては道の両端でスリスリするので

短い距離なのに、家に着くまでにはかなりの時間がかかってしまいました。

やっと家に着いたので、「いい子だから、ちょっと待っててね。すぐに戻ってくるからね。」

と言って家に入ったのですが、その直後に「ギャオーーーッ!」というすごい声がしました。

驚いて外に戻ったら、クロちゃんは他の猫に追いかけられて、もの凄いスピードで逃げていくところでした。

私はその時まで、メス猫にも縄張りが有る、という事を知らなかったので

クロちゃんには本当に悪い事をしてしまったなぁ、と思いました。


しかし、クロちゃんはそんな事は根に持たずに、私が通りかかる時には

以前と変わらず愛嬌を振りまいてくれました。

「こんなに可愛い猫は、どーしても飼いたい!」と思わせる猫だったので

やはり他の人にも気に入られたのでしょう。 クロちゃんのテリトリーの近くの家の方が飼うことになりました。

とっても可愛いクロちゃんですが、結構気が強いらしく

その界隈で番を張っていた猫(うちではボス猫と呼んでいた)とも取っ組み合いの大喧嘩をしたそうです。

飼い猫になってからは道端で会うことが出来なくなってしまい残念ですが

クロちゃんは飼い猫として、きっと幸せな毎日を送っていることでしょう。


茶トラ、三毛婆ちゃん、クロちゃん、その他にも色々な猫に出会えて思いました。

「猫が安心して住める街って、人間にとっても住みやすいんじゃないかな?」

−−−猫に全然出会えない街って、何となく寂しく感じてしまいます。





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