【少しのしあわせ】

文・風羽/イラスト・みのり

猫の絵


「にゃあ、にゃあ・・・。」

その日、聞きなれない子猫の声に私は「出ておいで」といってみた。

猫好きの私にとっての日課である。

子猫がでてきた。

とっても驚いた。

茶色のしま模様のそのこは、ぼろぼろで、風邪をひいていた。

しかもやせている。

子猫は私に擦り寄ってきた。

そういえば、この間近所の人が引越しをした事を思い出した。

猫を飼ってたらしいけれど、もしかしてこのこの事なのかと思った。

私はその子猫を「ちろ」と呼んだ。

ちろは私にべったりと付きまとった。

ひざの上に乗っかったり、途中まで学校についてきたり。

ちろは私にしかすりよらなかった。

他の人をひどく恐がった。

だから、私も大切にしてやろうと思った。

私の家は兄が猫アレルギーのため、こっそりとやせ細ったちろに私は残飯をやっていた。

楽しい毎日だった。

でもすぐに終わりが来た。

ちろは、本当に弱っていて、その日、よろけながら必死に私を追ってきた。

「ちろ、学校があるの。ごめんね。帰ってきたら、面倒見てあげるよ。」

汚いちろを面倒見たがる人はいなかった。

ふと、ちろが笑ったように見えた。

一声「にゃん」と鳴くと、珍しくすぐに空き地へ帰っていった。

その日から、ちろの鳴き声も、ちろの姿も見えなかった。

ちろ、少しのしあわせでも感じる事ができただろうか。





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