【猫のこりす】

文・ねこりす/イラスト・みのり

猫の絵


その神社は不思議な場所だった。

すぐ傍に高速道路が走り騒々しい筈なのに、

ひっそりと静まりかえり、空気さえも違っている。

朱塗りの本殿、小さな舞殿、何処にでもある懐かしい感じのする神社だ。

背の高い木々に囲まれ、涼しい木陰を提供してくれていた。

春になれば参道の桜が美しい。老木が残り少ない寿命を燃えつくそうとして咲いている。

その健気さが心をうつ。ここに居ると、とても落ち着く。

ふっと深呼吸して、つい空を仰いでしまう。現実と離れる瞬間だ。



ある日、その神社に立ち寄ると、舞殿の奥から仔猫が飛び出して来た。

猫は大抵「おいで」と呼んでも逃げてしまう。

賽銭を入れ手を合わせている間にやはり姿を消していた。

気になって仔猫が飛び出して来た方へ行ってみる。


「あっ、いた。君、どうしたの?」


すると仔猫は、恐る恐る歩み寄りこう言った。


「お腹がすいて死にそうです。風邪もひいてて苦しいんです。目もぐちゅぐちゅ、

ノミに刺されて体がかゆくて.... お願いです! 助けて下さい。」


猫が自分から寄って来て、私に助けを求めるなんて.....

「あのね、でも、うち動物飼えないんだよね、ごめん」仔猫は泣いていた。

「泣かないで、だって、だってね....」

駄目だ駄目な筈なのに、私はもう既に仔猫を抱いて家路を急いでいた。

「ねぇ、どこに行くの?」

「私の家だよ、ごはん沢山食べようね」

「うん!」

私の肩に乗りまるでリスのよう。



仔猫は家に着くと、たらふく餌を食べ、安心したのかひっくり返り大の字になって寝てしまった。

「おい、おい」私はもう恋に落ちていた。

秘密は抱えたけれど、彼女と暮らす決心をしていた。

「可愛いね、好きだよ」



そして4年が過ぎた。彼女は美しい三毛猫に成長し、私の心を癒してくれている。

時々あの神社へ行く。そしてあの日の事を思い出し、ちょっと笑う。

猫のこりすと出会ったその場所には今日も涼しい風が吹いていた。





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