【まーくんとランタ】

文・ジェミニ/イラスト・みのり

猫の絵


まーくんは、ダンボール箱の中の僕を見つけると、

自転車のかごに入れて、急いで家に帰った。


「おとうちゃん!おかあちゃん!すっごい可愛い子ネコだよ!!」


お父ちゃんとお母ちゃんは、玄関まで僕を見にきた。

でも、19年も一緒に暮らした猫がつい一週間前に天使になったばかり。

悲しくて、悲しくて、もう猫さんを飼うのはよそうねって話していたんだってさ。

夜になって、高校生のお兄ちゃんが帰ってくると、

「おまえ、おれんちの子になるんだ!いいじゃん、いいじゃん」

って言ったから、それで決まり。

その時、オリンピックがアメリカのアトランタってとこで開かれてて、

僕の名前はランタになった。白くて、背中とシッポが茶トラの、

ほんとちっちゃい子猫ちゃんだったんだよ、ぼく。



それからは、まーくんといっしょに、遊んだ、遊んだ。

裏山のてっぺんまで登ったり、駆け下りたり。

大雪の時は、「ランター!あったかいよー。中においでよ。」って、

自分がつくったかまくらの中にぼくを入れた。あのさあ、ぼくは裸足だもんね。

ちべたかったなあ。でも、楽しかったね。

かまくらの中は狭くてぼくとまーくん二人がようやく入れるぐらい。

お母ちゃんがいっぱい写真とってたね。



まーくんは小学校3年生。学校は坂の上にあってけっこう遠い。

でも、ぼくは迎えに行ったよ。校門の少し先のところで待っていたんだ。

まーくんの友達が、「でっかいネコだなあ!おまえんとこに来るよ?どうして?」

って先に気がついた。まーくんは、「ランタ!!」って言いながら僕を抱きしめた。

だって、山を二つも越えて会いにいったんだもの。びっくりしたと思うよ。

それから、僕はまた先回りして、うちの玄関でまーくんのこと待ってたんだ。

僕を見つけると、また抱き上げて喜んでくれたよ。

「すごいよ!ランタ!」って言ってくれた。

この話は、お母ちゃんが自慢そうに皆に話してたけど。犬みたいねって、よく言われたって。

ふざけちゃいけないよ、猫だって人間と仲良しするのが大好きなんだから。



近くの家に住んでた、ガールフレンドのバンジーに、山で捕った野ねずみ、

ほら毛が茶色いやつ、それをよくプレゼントしたんだ。でも、食べてくれなかった。

まーくんは、アジサイの花がいっぱい咲いている隣の家にピンポーンってして、

「おじちゃん、アジサイのお花ください。」って頼んだ。

「おー、いいよ。」って言ってくれたので、野ねずみのお墓を作ってアジサイを飾った。

そのうち、お墓がいっぱい増えてきて、アジサイのお花もすっかりなくなってしまった。

それを見た、お母ちゃんはおじちゃんちにすっとんでって、

「ごめんなさい。すいません。」って頭をぺこぺこ下げてたっけ。

おじちゃんはニコニコ笑ってたけどね。



治らない病気になって、皆のこと悲しませてしまったけど、

最期までいっしょにいてくれて嬉しかったよ。

まーくんのお布団に寝ているぼくを皆で囲んで、夜明けまでいっときも離れずにいてくれたね。

本当にありがとう。たった2年半だったけど、僕、ほんと楽しかったよ。

いっぱい、いっしょに色んなことしたね、まーくん。お空の上からいつも見てるから、

ぼくの分までいっぱい生きてね。





戻る