【妻のネコ】

文・YUKOさん/イラスト・みのり

猫の絵


  「もうあなたとは話にならない」

そう言って妻が立ちあがった時、大きいネコは頭をあげた。

そして彼女がベッドルームに向かうと、さっと起き上がって彼女の後に続いた。

それを見ていた小さいネコも急いで後を追いかけて、続いて消えた。

妻のネコ達。



パタンとドアが閉まって、アパートメントが2つに区切られる。

ケンカの原因はいつも些細な事。

妻がイライラしながらベッドに横になると、ネコたちも一緒に跳びのって、

彼女の足元と脇にそれぞれ腰を降ろした。

忠犬と言う言葉があっても忠猫という言葉が無いのは、

ネコという生き物に対しての単なる偏見だと、こういう時に彼女は思うのだ。

ネコ達は決して彼女を1人にはしない。

彼女はそんな自分のネコ達をどう仕様も無く愛しく、そして誇りに思っている。

彼女を見つめる4つの目。両手を伸ばしてそれぞれの頬を撫でてやると、

ネコ達はゴロゴロと喉を鳴らしてそれらを細める。

『あなた達の為になら、多少の窮屈は我慢しよう』

子供の事を考えて離婚を思い止まる女は世間にいくらでもいるけれど、

ネコの為に同じ事を思う女は果たしてどれほど存在するのだろう?

『ざまあ見ろ』

これは仲間外れになっている最中の夫に対して。



見たい番組が全て終わる頃になると、夫の方はなんだか居心地が悪くなってくる。

テレビなんて所詮、電気仕掛けの箱。味方とまでは呼べないのだ。

そんなものだから、夫は3対1がだんだん堪えて、

やはりまた降参するしかないんだと諦めるのだった。

何か大きな決断をするかのように少し大き目に息を付いて、夫はベッドルームのドアを開けた。

敵陣地に入って行くというのは、やはり息苦しいのだ。

部屋の中は暗く、妻もネコ達も寝てしまっていた。

その姿は子供たちと、それらに添い寝している母親の様でもあるし、

寄り添って寝ている3匹のネコのようにも見える。

そして、そこにはとてつもなく平和で優しい空気が出来上がっているものだから、

夫は幸せで、なぜか少し切ない気持ちにすらなるのだった。

妻達を起こさぬようにそっとベッドに腰を降ろしてその寝顔を見ていると、

さっきは言えなかった言葉が自然と口を付いて出る。



「ゴメンね...」



すると、大きいネコが目を開けた。

丸いグリーンの瞳は夫を睨んでこう言っている。



「まだ許さないよ」




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